バッドフィンガーの1971年作『Straight Up』は、パワーポップの礎を築いた傑作として今なお称賛されている。アップル・レコードから発表され、ビートルズとの縁が深い彼らだが、このアルバムでは単なるフォロワーではなく、独自の音楽性を際立たせている。黄泉の国の入り口で途方に暮れるような達観した雰囲気が全体を包み込み、アルペジオ、パワーコード、美しい旋律を織り交ぜた楽曲が揃う。どこか宇宙的な広がりと死生観すら感じさせる作品で、後に悲劇的な運命をたどるバンドの宿命が、音の隙間から滲んでいるようだ。
当初はジョージ・ハリスンがプロデュースを手がけたが、「コンサート・フォー・バングラデシュ」に専念することになり、最終的にトッド・ラングレンが引き継いで完成させた。ジョージが関与した楽曲には「Day After Day」や「I'd Die Babe」などがあり、彼らしい滑らかで温かみのあるサウンドが際立つ。一方、トッドはバンドのメロディセンスを鋭く引き出し、統一感のある仕上がりに導いた。結果、内省的なムードと洗練されたアレンジが同居する作品になった。
アルバムを代表する「Day After Day」は、ジョージのスライドギターが美しく響き、ピート・ハムの切ない歌声が胸に迫る名曲。続く「Baby Blue」は、トッドのプロデュース力が光るキャッチーなナンバーで、力強いリフと流麗なメロディが際立つ。2010年代にはドラマ『ブレイキング・バッド』の最終回で使用され、再び脚光を浴びた。
「Perfection」はアコースティックギターを軸にしたフォークロック調の楽曲で、理想と現実の狭間に揺れる心情がにじむ。「Name of the Game」はピートの作曲力の奥深さが伝わる壮大なバラードで、繊細なアレンジが静かに感動を呼ぶ。「Money」は、金に翻弄されたバンドの運命を暗示するようであり、ビジネスの世界に振り回される音楽家のリアルな悲哀が投影されている。
全体を通して、夕暮れ時のような哀愁と美しい旋律が溶け合っている。アルペジオやパワーコードを活かした楽曲が多く、後のパワーポップの雛形となった。
発売当時は商業的に大成功とは言えなかったが、批評家の評価は高く、後の世代に大きな影響を与えた。ビートルズ直系のバンドというイメージが強いバッドフィンガーだが、本作ではバンド自身の音楽的アイデンティティが確立されている。哀感とメロディの完成度は、時間が経っても変わらず価値を増す。
地味ながらも味わい深く、聴けば聴くほど心に染みる一枚。まさしく“地味渋な大傑作”。スルメのように噛むほどに味わい深く、日本酒を傾けながらじっくり聴きたくなる。