solid bond

never a dull moment

radiohead / OK computer

『OK Computer』を初めて聴いたのは大学3年の梅雨時。前作『The Bends』への強い信頼があった分、冒頭から戸惑いは大きかった。音が明確に分離され、ギターの重みは抑えられ、全体的に引き算のサウンドデザイン。音が空間に配置されているような感覚があり、バンドサウンド特有の一体感や熱量とは違う質感だった。

高音域が際立っていたのも特徴的だった。クラブやヒップホップの文脈で進化していたDJ文化の影響を感じさせるような、帯域を意識したミックス。ギター中心のロック的音像、『The Bends』のような、音が塊になって押し寄せてくる快感とは明らかに違っていた。整理されたサウンドは美しくもあったが、最初はその“整いすぎ”に違和感があった。

曲構成も難解だった。シングルカットされた「Paranoid Android」はめまぐるしく展開が変わり、クセ強めのMVも含め当時は全体の構造が掴みにくかった。『Dear Prudence』的というか、断片的な魅力をフックとして聴かせてくる構造だった。

トム・ヨークのボーカルも変化していた。前作ではジェフ・バックリー直系とも言えるファルセットが前面に出ていたが、今作ではそこから距離を取り、よりサイケデリックで情緒のつかみにくい歌唱に変化した。その曖昧さも、初期には馴染めなかった要因だった。「Lucky」は特に深刻さが過剰に感じられ、没入よりも距離を置いてしまった。

ただ、繰り返し聴くうちに印象は変わった。わかりやすいギターロック的快感が感じられる「Electioneering」や「No Surprises」「Let Down」など、メロディーの輪郭がやわらかく、それでいて芯のある楽曲群が支えていた。これまでのヴァース-サビ構造から逸脱したメロディー展開も、「曲としてのまとまり」よりも「フレーズが織り重なる快感」へと重心が移動している印象だった。

結果的にこの作品は、バンドとしての転換点になった。プロデューサーとしてナイジェル・ゴルドリッチが本格参加し、バンドのサウンドを一度解体し、90年代の終わりにロックを成り立たせるために再構築してみせたアルバム。その方向性は、後続のUKロック勢——TravisColdplayDovesなどにも受け継がれた。個々のバンドが似た質感を持ち始めたのは、このアルバムの音響設計が一つのテンプレートになったからだ,。

ただ、当時の音楽シーンを代表する作品かというと、必ずしもそうではないと思う。
Oasis『Be Here Now』、BlurBlur』、The Verve『Urban Hymns』、Beck『Odelay』など、名盤と呼ばれる作品が並んだ97年。よりリアルタイムなカルチャーの空気を伝えていたのは、むしろこれらの作品だった。『OK Computer』はそれらと比べると、時代と並走しているというより、俯瞰から眺めている印象だ。

時間が経ってから浸透するタイプの作品であることは間違いない。ロックの形式を内側から更新しようとする意志。音のバランス、構成、メロディー、どこを取っても従来のスタイルを単純には踏襲せず、次の段階へと進もうとする意識がある。挑戦の質が、当時俺みたいなロック弱者が違和感を感じた一因でもある。

『OK Computer』は後の音楽に決定的な影響を与えた作品。結果的に、自分の耳をアップデートさせたアルバムのひとつになった。