solid bond

never a dull moment

Small Faces – Ogdens' Nut Gone Flake

1968年にリリース。

大学時代、ポール・ウェラーの影響でスモール・フェイセズばかり聴いていた時期があった。モッズを経由したファッションセンスとヤンキー的なマインドは、当時の自分の感受性の高まりと重なり合っていた。特にこの作品はガツンときた。

アルバムはA面「Ogdens' Nut Gone Flake 」B面「Happiness Stan」の2つに分かれている。永らくコンセプトアルバムの傑作とされていたが、曲単位で聴くことが多い今の時代、B面のコックニー調のセリフとか面倒だ。
また、引き合いに出すのもあれだが、ビートルズアビーロードのBサイドと比べると、計算された盛り上がりもなく、言葉がわからない日本人にはあまり伝わらない。

プロダクションの弱さも耳につく。レコーディングエンジニアは、当時人気のグリン・ジョンズが担当。グリンは、バンドの勢いを尊重しリアルな音を優先する傾向があり、レッド・ツェッペリンなどでは良い仕事をしているが、演奏がそれほど上手では無いスモール・フェイセズではそれが逆効果をとなり、演奏、特にマリットのギターの適当な感じが気になる。ミックスもコンプレッサーを過剰にかけて音の粒子を壊したような感じで、故意にそうしたのだろうが、サイケデリックでメロディアス、コンパクトな曲に、ふさわしいサウンドではないと思う。アレンジも中途半端なものが多い。適当な演奏を、音を壊して誤魔化しているように聴こえる。
映画「ゲット・バック」を観た後だと、グリン・ジョンズでは無くジョージ・マーティンが現場を仕切っていたら全然違う作品になっていたんだろうなと妄想してしまう。

一方で、曲の質は圧倒的に高い。モッズ・アイドルのイメージから脱却し、ハードなロッカーに成長しつつあった「アドレナリン・モンスター」のマリオットと、モッズの中のモッズとしてお洒落なセンスを持つレインのソングライティングは、優れたソングライターが多くいたこの時代でも際立って素晴らしい。このアルバム(と、周辺のシングル)に限ればレノン・マッカートニーに匹敵し、グリマーツインズ、レイ・デイヴィスより上だ。
マリオットの同時代では最高峰のロックボーカルも、サイケデリックで圧倒的でありながら、ポップさを保っているのが最高だ。

センスの良い曲とハードなギター、パワフルなドラム、ちょっとトラッド的なフォーク感、そしてサイケデリックな要素が組み合わさり、まさしくUKロックの最高峰。ブリットポップの元祖とも言える。
ちゃんと作っていればビートルズの諸作を越える傑作になっていたんじゃないか・・・、それぐらいポテンシャルのある作品だ。

最近数年間、そう、フジロックでロッド無しの再結成FACES(アンコールで"All or Nothing"を演奏)を観た後ぐらいから、スモール・フェイセズを聴く機会が大幅に減った。
ティーヴ・マリオットの歌声を聴くときは、ほとんどがハンブル・パイの曲になった。スモール・フェイセズは彼のキャリアの未完成な時期とみなしていた。
現在では、存命の中心メンバーはドラマーのケニー・ジョーンズだけ。得するヒトも減ったこともあってか、メディアも、この名盤をあまり話題にしなくなった。
かつてはコンセプトアルバムの名盤として称えられていたこの作品も、いまでは「忘れられた名盤」に分類されるかもしれない。
アルバムを巡る状況は寂しい限りだが、久々にじっくり聴くと、やはり最高のUKロックアルバム。俺は好きだな。