solid bond

never a dull moment

スモール・フェイセズの軌跡

彗星の如く駆け抜けた若きモッズバンド

スモール・フェイセズは、子役で歌手経験もあったスティーヴ・マリオットと、マリオットが楽器屋でバイトをしているときに知り合ったロニー・レインを中心に、1965年ロンドンで結成された。マリオットは1947年生まれなので、生きていれば77歳(2024年時点)。60年代ミュージシャンとして一括りにされることが多いが、ジョン・レノンが1940年生まれなので、小学校が被らない、ひとつ下の世代といえる。同級生はデヴィッド・ボウイマーク・ボランブライアン・メイ、70年代に旬を迎えたアーティストばかりだ。ちなみに好敵手的な関係で語られることが多い(成功度合いはぜんぜん違うが)スティーヴ・ウィンウッドは48年生まれで一つ年下だ。二人のスティーヴという名をもつ天才アーティストは、当時のUKロック界隈では、結構な「低学年」だった。

ロンドンの2大モッズバンドとして、ウェスト・エンドの代表がフー、イーストエンドスモール・フェイセズだとよく言われる。ただ、本物のモッズはスモール・フェイセズだったことは明白で、フーのギタリスト、ピート・タウンゼントも「フーは元々モッズじゃない、スモール・フェイセズはモッズの中で生まれた」的な発言をしていた(と思う)。オシャレ度合いの違いは圧倒的、これは素人が観てもはっきりわかる。音楽的にもデビュー盤のR&B色の強さはスモール・フェイセズの大きな特徴になっていて、自然にこなしている感じも本質的な要素が大きいと思う。スタートはR&Bをベースとしたモッズサウンドだったが、その後サイケデリックな要素を強め、ミュージカル的なものまで取り込み、一方でハードロックの元祖的なものをポップな要素を含みながら作っていく。変化を恐れない姿勢はまさに「チェンジングマン」ポール・ウェラーなどに引き継がれていることは周知の通りだ。

スモール・フェイセズの強みはスティーヴ・マリオットの圧倒的なボーカルと、中期以降のオリジナルソングの曲の良さにある。一方で、ギターのワンパターンなコードストロークや、グルーヴを全く感じさせないリズム隊など、演奏力では同時期の他のバンドの後塵を拝する。音の録り方も多いに関係していると思うが、凄く下手くそに聞こえる。ただ、グルーヴゼロのままギターをジャカジャカ鳴らす衝動的な演奏とローファイな録音のおかげで、90年代のUKロックバンド、更にはガレージバンドやパンクの元祖とも言えるような音になっている。90年代にリスペクトを集めた理由の一つだと思う。

レーベルの移籍やマネジメントとの確執などで、きちんと評価できるオリジナルアルバムが3枚しかないのは、後世の人間にとって不幸だ。真っ当な状況で作られたアルバムは「Ogdens' Nut Gone Flake」だけかと思う。
活躍時のメンバーの内、マリオット、ロニー・レインは早逝し、ロック界のまさに「顔役」だった元気者のイアン・マクレガンも二人に合流してしまった。90年代のようなモッズ再評価が今後見込めない中、バンドはひっそりと歴史の陰に隠れようとしている。かつての名盤も今や語られることがほとんど無くなってしまったのが寂しく残念だ。

 

Small Faces

デッカから出た唯一のオリジナルアルバム。デビュー・シングル「What'Cha Gonna Do About It」、代表曲「Sha La La La Lee」を含み、最高位は全英3位。トップ10内に3ヶ月留まったロングセラーアルバムだ。
モッズっぽいR&B趣味を、10代のバンドらしくドタバタ感満載に鳴らす、けたたましいアルバムになっている。中心にあるのは爽やかな見た目とのギャップが半端ないマリオットの黒すぎるボーカルだ。つんのめったヘタウマ感満載のサウンドも、マリオットの声が乗るだけで相当な説得力を持ち、一級品に変わる。

アルバム1曲目はなぜかベースのロニー・レインがメインボーカルを務める「Shake」。この曲やシングルカットされた曲の完成度はそれなりだが、いくつかの曲は緩いプロダクトでまるでガレージバンドのようだ。この傾向は解散するまで変わらないが・・・。「You Need Loving」はレッド・ツェッペリンが真似たことで有名だが、ボーカルだけレッド・ツェッペリンに移籍していたら一体どんな音になっていたか、妄想してしまう。

エンジニアは、この後レッド・ツェッペリンで良い仕事をするグリン・ジョンズ。ビートルズの映画「ゲット・バック」ではモッズスーツに身を包んでクールに登場したのが印象的だった。一般的な評価は知らないが、個人的にはあまり良いエンジニアとは思わない。このアルバムでも、ビートルズ「LET IT BE」のグリンバージョンと同じように、音のクオリティの低さを感じてしまう。本来選ばれるべきではないテイクがアルバムに収録されてしまっているような・・・。

バンドの勢いやマリオットの迫力あるボーカル、モッズの教科書として最適な一枚だが、このバンドならではのオリジナリティが炸裂するのはこの後からだ。是が非でも聴かなければならない不朽の名盤では無い。

 

Small Faces(the first immediate album)

より自由な環境を求め、モッズとの繋がりも深いイミディエイト・レコードに移籍し67年に発表されたセカンド・アルバム(日本では「From the Beginning」がセカンドアルバム的な扱いとなっているが、これはボツ曲などを集めた編集版)。1STアルバムと同様バンド名がタイトルとなっているため、「the first immediate album」と呼ばれている。
デッカ時代はモッズアイドル的な側面が強調されR&Bカバーも多く収録されたが、この作品は全曲バンドのオリジナルで構成された。洒落者ロニー・レインのセンスも強く反映され、マリオットのハード路線と上手く絡み、またドラッグの影響もあり、R&Bバンドから脱却し、ブリットポップの元祖とも言える、トラディショナル、ポップ、ロック、R&B、ガレージ、パンクなど様々なエッセンスが散りばめられた独自の音作りに成功している。

アルバムは、デッカ在籍時代に書かれた「(Tell Me) Have You Ever Seen Me」から始まる。ドタバタした感じは1STに近いが、メリハリのついた歌の迫力は段違いだ。
「Something I Want To Tell You」は後のブリットポップにも繋がるいかにもUKないなたい曲で、ロニーの色が強い。この曲や「Feeling Lonely」、ご機嫌なインスト「Happy Boys Happy」あたりでは、イアン・マクレイガンのキーボードの存在感が大きい。ロッド・スチュワートも歌った「My Way Of Giving」、シンプルなギターリフがかっこいい「Talk To You」でのスティーヴのボーカルはまさに本領発揮でかっこいい。このあたりのハードな曲もポップに洒脱に仕上げるのがこのバンドの個性だ。そしてthe JAMポール・ウェラーもカバーした「Get Yourself Together」は非常にブリットポップ的な曲で、ワクワクするイントロからのAメロの流れ、流れるようなブリッジのメロディー、ライブで盛り上がりそうな合いの手、イアンのキーボードのメロディ、後半盛り上がるマリオットのボーカル。まさに極上の一曲だ。このアルバムを象徴してはいないが、代表する曲であることは間違いない。JAMのバージョンもリスペクトしつつパンクの疾走感を加えた最高のカバーになっているので、未聴の方は是非。アルバム最後の「Eddie's Dreaming」もロニーの色が濃いナンバーで、金管楽器とパーカッションをうまく配置した面白い曲になっている。これもいかにもUKな名曲だ。

アルバムは全英12位と「まずまずのヒット」止まり。モッズアイドル的なものを求めるオーディエンスの期待とのギャップを反映した結果か。このあたりの擦れ違いの積み重ねがバンドの早期崩壊に繋がっていく。
ただ、ポール・ウェラーが92年に「俺の人生の10枚」的なものにこのアルバムを選出するなど、非常に評価が高い一枚で、俺も凄く好きな作品だ。

 

Ogdens' Nut Gone Flake

1968年にリリース。
一般的に、スモール・フェイセズの代表曲とされる。
曲の質は圧倒的に高い。モッズ・アイドルのイメージから脱却し、ハードなロッカーに成長しつつあった「アドレナリン・モンスター」のマリオットと、モッズの中のモッズとしてお洒落なセンスを持つレインのソングライティングは、優れたソングライターが多くいたこの時代でも際立って素晴らしい。このアルバム(と、周辺のシングル)に限ればレノン・マッカートニーに匹敵し、グリマーツインズ、レイ・デイヴィスより上だ。
マリオットの同時代では最高峰のロックボーカルも、サイケデリックで圧倒的でありながら、ポップさを保っているのが最高だ。
センスの良い曲とハードなギター、パワフルなドラム、ちょっとトラッド的なフォーク感、そしてサイケデリックな要素が組み合わさり、まさしくUKロックの最高峰。ブリットポップの元祖とも言える。
ちゃんと作っていればビートルズの諸作を越える傑作になっていたんじゃないか・・・、それぐらいポテンシャルのある作品だ。

アルバムは、A面「Ogdens' Nut Gone Flake 」B面「Happiness Stan」の2つに分かれていて、永らくコンセプトアルバムの傑作とされていた。だが、曲単位で聴くことが多い今の時代、B面のコックニー調のセリフとか結構面倒だ。また、引き合いに出すのもあれだが、ビートルズアビーロードのBサイドと比べると、計算された盛り上がりがなく、言葉がわからない日本人にはあまり伝わらない。要はコンセプトアルバムとしての良さはわからない。

プロダクションの弱さも耳につく。レコーディングエンジニアは、当時人気のグリン・ジョンズが担当。グリンは、バンドの勢いを尊重しリアルな音を優先する傾向があり、レッド・ツェッペリンなどでは良い仕事をしているが、演奏がそれほど上手では無いスモール・フェイセズではそれが逆効果をとなり、演奏、特にマリットのギターの適当な感じが気になる。ミックスもコンプレッサーを過剰にかけて音の粒子を壊したような感じで、故意にそうしたのだろうが、サイケデリックでメロディアス、コンパクトな曲に、ふさわしいサウンドではないと思う。アレンジも中途半端なものが多い。適当な演奏を、音を壊して誤魔化しているように聴こえる。
グリン・ジョンズでは無くジョージ・マーティンが現場を仕切っていたら全然違う作品になっていたんだろうなと妄想してしまう。「ゲット・バック」みたいに。

最近数年間、そう、フジロックでロッド無しの再結成FACES(アンコールで"All or Nothing"を演奏)を観た後ぐらいから、スモール・フェイセズを聴く機会が大幅に減った。
ティーヴ・マリオットの歌声を聴くときは、ほとんどがハンブル・パイの曲になった。スモール・フェイセズは彼のキャリアの未完成な時期とみなしていた。
現在では、存命の中心メンバーはドラマーのケニー・ジョーンズだけ。得するヒトも減ったこともあってか、メディアも、この名盤をあまり話題にしなくなった。
かつてはコンセプトアルバムの名盤として称えられていたこの作品も、いまでは「忘れられた名盤」に分類されるかもしれない。
アルバムを巡る状況は寂しい限りだが、久々にじっくり聴くと、やはり最高のUKロックアルバム。

このアルバム発表時のスティーヴ・マリオットは、若干21歳・・・。早咲きのバンドだった。

コンピレーション・アルバム

Smallfacesは、アルバムに入っていないシングル曲に名曲も多く、デッカ、イミディエイト双方のベスト盤をカバーしないと全体像がつかめない。
レーベルとのトラブル等もあり、アーティストの意向を無視した編集版も沢山でている。

From the Beginning

2ndアルバム的な扱いを受けている「From the Beginning」は、代表曲「All or Nothing」「My Minds Eye」が入っているため、代表作とされるケースさえある。

There Are But Four Small Faces

2nd「The First Immediate Album」をアメリカで出す際に編集した作品。地味渋な曲がカットされ、強力なシングル曲「Here Come the Nice」、「Itchycoo Park」、「Tin Soldier」が加えられ、非常に出来の良い「I'm Only Dreaming」も聴くことができる。秀逸なジャケットも最高で、アナログ盤を手元に置いておきたい作品だ。

The Autumn Stone

解散後に出された「The Autumn Stone」もイミディエイト時代のベスト盤的作品で、マリオットの才気溢れる名曲「The Autumn Stone」と「Wham Bam Thanks You Ma'am」を収録。現時点(2024)で配信サービスに無いのは寂しい限り。