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Electric Light Orchestra の傑作「Discovery」と俺

1979年にリリースされた「Discovery」は、ELOにとって大きな転換点となったアルバムである。タイトルの「Disco-very(とってもディスコ)」という言葉遊びが示す通り、彼らはオーケストラとロックの融合という当初のコンセプトから大きく舵を切り、ディスコ色の強いポップ・アルバムを作り上げた。それは時代背景とも無縁ではない。70年代後半はパンクの勃興やプログレッシブ・ロックの退潮と同時に、ディスコが世界的に隆盛を誇っていた時代であり、バンドのリーダーであるジェフ・リンは、その波を的確に取り込みつつも独自のポップ感覚を全面に押し出した。こうして「Discovery」は誕生したのである。

制作の背景を振り返ると、ELOはもともとロックとオーケストラの融合を目指してスタートしたが、実際には大規模なストリングスを導入することによるコストや演奏の難しさが、活動を続ける上で大きな障害となっていた。ジェフ・リンはその点を割り切り、バンドを維持するためによりシンプルな構成に回帰することを決断する。そして当時全盛期だったディスコのビートと、自身が持つメロディメイカーとしての才覚を結びつけた結果、これまで以上にキャッチーでダンサブルなアルバムが完成した。シンセサイザーリズムマシンを多用したサウンドは、ELOが従来抱いていたシンフォニックなイメージを覆しつつ、未来的で都会的な色彩を帯びていた。

「Discovery」には「Shine a Little Love」「Don’t Bring Me Down」「Last Train to London」「Confusion」といった、今日でも愛され続ける名曲が収録されている。「Shine a Little Love」はアルバム冒頭を飾るにふさわしいきらびやかなポップ・チューンで、シンセとストリングスが軽快に絡み合いながら、ジェフ・リンらしい高揚感に満ちたメロディが展開される。「Don’t Bring Me Down」はELO初の全米トップ5ヒットを記録した楽曲で、力強いビートと反復するフレーズが、ロックバンドとしてのエネルギーを改めて証明するものとなった。この曲には有名な「Grooss」という掛け声があるが、これはファンの間で長年「Bruce」と誤解されて親しまれてきたというエピソードも有名だ。「Last Train to London」はディスコ・グルーヴを前面に出した都会的なナンバーで、夜のロンドンを舞台にした恋愛模様を軽快に描き出している。「Confusion」はシンセの煌めきと透き通るようなメロディが印象的で、アルバムの中でも屈指の完成度を誇る楽曲だ。これらの曲は単なるディスコの模倣に留まらず、ELOならではのポップな職人技を感じさせる。

このアルバムは商業的には大成功を収めた。イギリスではチャートのトップを5週間にわたって維持し、全世界的にもセールスは好調だった。しかし一方で、批評家からは「軽薄な決断」と見なされることも少なくなかった。特にオーケストラ的要素を期待していたファンや批評家からは、「ELOの個性を捨てた」と揶揄されることすらあった。だが、ポップとロックの垣根を軽やかに飛び越えたこの作品は、後のシンセポップや80年代の音楽潮流を予見する先駆けとして再評価されるに至る。

日本における受容は、欧米とは少し異なっていた。当時の日本ではすでにELOは人気バンドのひとつとして定着しており、このポップ路線は広く支持を集めた。ラジオやテレビでも頻繁に流され、特に「Last Train to London」や「Don’t Bring Me Down」は洋楽ファンの間で定番曲となった。日本におけるELO人気は独特のもので、70年代から80年代初頭にかけてのシティポップやニューミュージックの潮流と響き合う部分もあったと考えられる。

90年代に入ると、ELOの評価はやや停滞する。カリスマ的な存在感を持つ70年代の大物ロックスターたちに比べると、ELOには「ビートルズの二軍」といったイメージが付きまとい、レコードコレクターが愛好するにはメジャーすぎる存在だった。そのため、ロックの文脈で語られる機会は減少していった。自分自身も90年代にはほとんどELOを聴いていなかったし、むしろジェフ・リンがジョージ・ハリスントム・ペティのプロデューサーとして活動する姿の方に注目していた。

しかし状況は2000年代に入って大きく変わる。まず、ビートルズの「Anthology」においてジェフ・リンがプロデュースを務めた2曲によって、その職人技が改めて評価されるようになった。そして日本では2005年のドラマ「電車男」で「TIME」「Twilight」が使用されたことによって、ELOが新しい世代に強烈な印象を残した。さらに、90年代にユニコーン奥田民生がELO的なサウンドを取り入れていたこともあり、日本の音楽ファンの間では無意識のうちにそのエッセンスが刷り込まれていた。これらの要因が重なり、ELOは再評価の波に乗ることとなったのだ。

自分にとっても、ある時期からELOは日常に欠かせない音楽となった。特に「Discovery」を含む70年代後半から80年代初頭の作品群は、通勤時のBGMとして毎日のように聴いていた。テンションが上がるし、暗さや重苦しさがほとんどなく、ただひたすらにポップで前向きなエネルギーを与えてくれる音楽。それは日常を明るく彩るサウンドトラックであり、何度聴いても飽きることがない。

「Discovery」は、ELOのアルバムの中で最も多彩なバラエティ感とワクワク感を持っている作品だと言える。もちろん「Out of the Blue」の壮大さや、ベストアルバムでのヒット曲の連なりも魅力的だが、「Discovery」にはアルバム全体を通して一貫した明るさと遊び心がある。過小評価されがちなのは本当に勿体ないことで、このアルバムこそ骨の髄まで楽しみ尽くすべき一枚だ。ディスコとロック、そしてジェフ・リンのポップ職人としての才能が結晶した「Discovery」は、時代を超えて聴き継がれるべき作品なのである。