朝4時に目が覚めた。正確に言えば、眠り切れなかっただけだ。3連休の中日、前の晩から頭のどこかでエンジンをかけっぱなしにしていて、そのまま布団を蹴飛ばした。軽い筋トレをかまして、アイスシャワー。朝飯を喰らって5時半には車のエンジンをかける。空はまだ夜を引きずっていて、遠くがうっすらと白んでいた。
車には少し困っている。エアコンが死にかけていて、走り始めは一応冷たい風を吐くくせに、10分もするとぬるい空気に変わる。この暑さの中でそれは軽い拷問みたいなもので、窓を開けても湿気混じりの風が入ってくるだけ。ラジオをつけても聴く気になれず、ただ道路の音だけが相棒だった。
目指すのは静岡県藤枝市。サッカーの街として知られているが、この辺りには「朝ラーメン」という独特の文化がある。お茶の農作業や夜勤明けに、さっぱりしたラーメンを啜って腹を満たす。ずっと試してみたかった。
いつも通り街の雰囲気を味わいながら下道を走り、陽が昇りきる前の静岡を汗をかきながら進む。ラーメンのためにここまで早起きするなんて、何をしているんだろうと思いつつ、それが悪くないとも思っている自分がいる。

7時過ぎ、藤枝に着いた。向かったのは「森下そば」。テナントが並ぶ一角にその店はあった。看板には「森下そば」とだけ書かれていて、店先の駐車場に車を滑り込ませると、外で一人待っていた。朝7時半で外待ち。これが藤枝の朝ラーメン文化だ。
中に通されると、店内はカウンターが数席と小さなテーブル席があるだけの簡素なつくり。厨房の奥では亭主がひとりで黙々と仕込みをしていた。仕込み、注文、調理、配膳、すべてを一人で回している。丼を運ぶ手つきが忙しくも無駄がなく、背中から職人としてのプライドが滲み出ていた。

頼んだのは冷たい塩そば。澄んだスープは朝の胃袋に優しいけれど、鶏のチャーシューの旨味がじんわり舌に残って、一気に啜ってしまう。テーブルの向こうでは、近所の親父さんたちが冷やしラーメンと温かいのをハシゴしている。朝から二杯。それが普通の土地だというだけで面白い。吉田のうどんと同じような文化だ。
ラーメンを啜り終える頃には、街はすっかり陽に照らされていた。車に戻り、次は藤枝明誠高校へ向かう。言わずと知れた静岡の名門校のひとつだ。
フェンス越しに見える芝生のグラウンドには、すでに練習が始まっていた。スパイクが人工芝を削る音が遠くで聞こえる。山梨で見る高校生とは体の厚みが違う。肩幅も太腿も一回り太い。
2時間ほど観戦して、ふと時計を見るともう昼を回っていた。
昼過ぎ、車に戻るとエアコンはもう完全に黙り込んでいた。生ぬるい空気だけが車内を泳ぐ。ハンドルが焼けて熱い。次の目的地は焼津駅近くにある「エキチカ温泉くろしお」。焼津といえば港町で海の幸だが、今回は海鮮ではなく、前から気になっていたこのサウナだと決めていた。

「エキチカ温泉くろしお」はJR焼津駅から徒歩5分ほど。サイトの口コミではサウナの熱さと水風呂の冷たさが評判だという。駐車場は広く、平日でも週末でも地元客がふらっと立ち寄れる。中に入るとこぢんまりとした浴場が迎えてくれる。
内湯は3つほど、露天はない。窓もほとんどなく、外の空気は感じられない。小さな秘密基地に迷い込んだような気分になる。サウナ室は広く、大きなストーブが熱を吐き続けている。湿度も十分で、オートロウリュもいい感じ。息苦しさはなくじっとり汗が滲む。
水風呂は塩素の匂いがするタイプだが、嫌いじゃない。しっかりととのえた。惜しいのは整いスペースが狭く、椅子の間隔が非常に近いことだ。それでも旅先で汗を流し切るには十分すぎた。ただ、遠くからここを目的に来るような個性のあるサウナでは無いかな。次は果たしていつになることか。
行きも帰りも大した混雑はなかった。エアコンの死んだ車に乗り込むのは億劫だが、旅の満足感とで相殺だ。