
やたらと生温かい1日だった。暑いと温かいの中間。うとうとしながら、日常と非日常の狭間にいるような。ちょっと歪んだ季節だ。
パンダベア(Panda Bear)の新しいアルバム『Sinister Grift』が出ていた。かなり久しぶりの作品だ。前作『Buoys』から6年ぶり。
非常にポップでわかりやすくなった。ただ、そのポップさは表層に過ぎず、奥に潜むのは日常の歪み——サイケデリックな異空間。聴いているだけで、知らない場所へ迷い込んでしまう感覚。これは本格的なトリップ・アルバムだ。ジャケットの昭和の昼間にやっていた刑事ドラマみたいな不穏さも、アルバムの異世界感を象徴している。
1曲目の「Praise」は、まさにこのアルバムを象徴する楽曲だ。ポップな肌触りなのに、どこに着地するのか全然わからない。その不安定さが心地よく、一緒にさまよう感覚に引き込まれる。優しく咲いている花に導かれながら、ふと気づくと元の場所に戻れなくなっている——そんなトリップだ。
Panda Bearことノア・レノックスは、アニマル・コレクティブのメンバーで、ドラムとボーカルを担当していた。アニマル・コレクティブも感じたように、ソロ作品でもリズム感がどこかズレている。『Sinister Grift』でも、その独特なタイム感が非日常感を生んでいる。日本で言うと、中村一義のファースト『金字塔』にも通じるものがある。ドラムの揺らぎ、ビートのズレが、どこか遠くへ連れていってくれる。
えげつないサイケじゃなく、自然体で聴ける、日常の隙間に入り込むようなトリップ・アルバムだ。気づいたら別世界にいる——そんな感覚が心地いい。今年のベストテンに入る作品になるのは間違いない。
今の春の気温、日差し、風の匂い——そんな“ぬるさ”に、このアルバムは妙にフィットしている。暑すぎる日には合わないな。
肌に馴染む温度の中でこそ、魔術は最大限に発揮される。春のうちに、このトリップを体験してほしい。