『The Bends』── レディオヘッドとの出会いと衝撃

レディオヘッドの『The Bends』はリアルタイムで聴いてどっぷり浸った。発売された95年3月はちょうど自分が大学受験を終えたタイミング。同じ頃、割と近くの上九一色村で例の事件があったりして、世の中も自分も結構慌ただしいタイミングでリリースされた。
そもそもレディオヘッドを聴くようになったきっかけは、カート・コバーンの死だった。カートを追悼した『ロッキング・オン』、それまでは立ち読みで済ませていたが、初めて購入してくまなく読んだ。ディスクレビューに日本独自編集の『Itch』が載っていたのを覚えている。白黒記事でトムのインタビューも載っていて、田中宗一郎が書いた「君のせいじゃない」というフレーズが、カート・コバーンの死と絡められめっちゃくちゃ印象に残っている。
ただ、最初に『Itch』を買おうとCDショップに行ったとき、まさに若気の至り、間違えてレモンヘッズのCDを買ってしまった。でも、それがまた良い作品(多分、93年発表のcome on feel)だった。その後で観たTVKの音楽番組では、イケメンイヴァン・ダンドゥが「中身のない奴」としてやたらと叩かれていて「え?」ってなったのも覚えている。
で、後日ちゃんと『Itch』を買い直して聴いて、そこからがっつりレディオヘッドにハマっていった。
『The Bends』の衝撃── トム・ヨークの歌声とギターの進化
『The Bends』を初めて聴いたとき、まず驚いたのはトム・ヨークの歌声の変化だった。前作『Pablo Honey』と比べて、格段にエモーショナルになっている。プロデューサーのジョン・レッキーがトムに「ジェフ・バックリーみたいに歌ってみ」とアドバイスしたとのこと。特に「Fake Plastic Trees」は、ジェフの影響を強く感じる曲だ。独特のファルセットや繊細な表現は、このアルバムの象徴的な要素になった。
もう一つ大きな変化は、ギター3人のバランスだ。
ジョニー・グリーンウッドのギターはより実験的になり、「My Iron Lung」ではカオティックなノイズを作り出している。だが、まだギターロックの範疇にあり、耳馴染みの良いフレーズを弾いていて、この時点では分かりやすいギターヒーローの一人だ。
エド・オブライエンは空間系エフェクトを駆使して、奥行きのあるサウンドを作り出す。「(Nice Dream)」のアルペジオは彼のセンスが光る部分だ。また、おそらくメロディーメーカーとしての貢献が大きい。
トムはシンプルなコードストロークで楽曲の骨格を支える。on friday時代からのレパートリーである「High and Dry」はまさに彼のシンガーソングライター的な側面を感じさせる曲だ。
3人のギターが絡み合い、ビートルズからクイーン、キングクリムゾンなど王道ロックから、前作に顕著だったニューウェイヴ、ピクシーズ、グランジまで、ギターロックの進化の歴史を総括したようなサウンドが生まれている。
『The Bends』の影響とその後
『The Bends』は90年代のギターロックの完成形のひとつだ。作品の影響を受けたバンドは多く、特にトラヴィス、コールドプレイ、ミューズあたりの初期作品には『The Bends』のエッセンスが色濃く反映されている。
ただ、レディオヘッド自体はこのサウンドに留まらず、次作の『OK Computer』で別の音世界へ舵を切った。『The Bends』は、レディオヘッドにとっては過渡期の作品とも言えるが、当時のUKロックシーンの中では最も完成度の高いギターロック・アルバムだったと思う。
90年代のレディオヘッドの中で1枚選ぶなら間違いなく『The Bends』。全キャリアで選ぶなら今は『In Rainbows』かな。『The Bends』のカタルシスやダイナミズムは、『In Rainbows』でさらに洗練され、昇華されたように感じる。
聴きすぎて、あるいは今の空気に合わなくて、滅多に聴かない作品でもある。ただ、年に数回改めて聴くと、当時の衝撃が蘇ってくる。
自分の人生の節目に寄り添ってくれた、そんな1枚だ。