solid bond

never a dull moment

OZ / 100s

OZ

OZ

中村一義率いる100Sのデヴューアルバム。一義のアルバムとしては5枚目になる作品。
正直な所、ふがいない前作「100S」で、僕の中では中村一義は終わったアーティストになっていた。楽曲の出来が格段に落ちていたし、驚くようなアレンジも無く、あからさまな引用(パクリまたはリスペクト?)が僕を完全に失望させた。

久方ぶりのアルバム。正直期待していなかった。しかし、予想以上に出来の良いアルバムを作ってきた。このアルバムは一義をもう一度最前線に戻すことに成功した。

まず、曲の出来が良い。ベックも使っていたリフを中心に展開される「A」、メルトロンのイントロに誘われて最高のアレンジがバンドの充実ぶりを誇示する傑作「Honeycome.ware」といった先行シングル、ベーシストの親の死を受けて作られた「やさしいライオン」(作曲はベーシストの山口名義になっている)、キーボードの響きが印象的で旧来の一義っぽいシンプルな「扉の向こうに」、おそらくこの作品で一応の終止符をうつ100sに捧げられたような「またあした」。以前の一義より優しげなメロディーがとても良い。前作のメロディーも優しかったが、緩すぎた。今回はいくつかの曲を除いてある程度の緊張感を持って、しっかり作られている。
アレンジは、露骨な引用が多すぎた前作が最低だったので、100Sのメンバーの力量とその作成現場の雰囲気をかなり疑問視していたが、今回はベースとドラムがしっかりとグルーヴを作っていてしっかり聴ける音になっている。キーボードも前面に出ないで控えめな分には凄くバランスが取れていて良い。ただ、ギターのリフは相変わらず安直なものが多い。ギタリストが二人いるのに・・・。「バーストトレイン」は良いけれど。

一義は「状況が裂いた部屋」から一人でやってきて、素晴らしい作品を幾つか作り出す内に、だんだん外へ出てきて、独りではなくなった。小宇宙的な音楽感が一義のデヴュー時の醍醐味だっただけに、3作目以降、アルバムを取り巻く人間が増えていくにつれてどんどんデヴュー当時にはあった「らしさ」が薄れてきた。前作はそのピークだったと思う。一義自身も混乱している感じがした。しかし、今回、新たな場所からしっかりと素晴らしい作品を作り出した。これは、非常に自然な人間としての成長の過程で、それを感じることが出来るというのは、やはりとても優れたアーティストなんだなあ、と思う。